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–「鈴廣」は、かまぼこを生業とする創業150年以上の老舗ブランドだ。本社や工場のある小田原市風祭には、商品を販売する店舗や飲食店、かまぼこ博物館など買い物から飲食、体験までが楽しめる「鈴廣かまぼこの里」がある。

そんな鈴廣ブランドの商品の製造、販売を行っているのが鈴廣かまぼこ株式会社。2010年頃からECサイトでの販売も行っている。最初はASPカートを利用していたが、その後オープンソースに移行、そして2020年4月にHIT-MALLを導入した。

HIT-MALL導入前にあった課題が、「年末商戦に合わせたギフト需要の受注管理の効率アップと出荷コントロール」だったという。

かまぼこは、日常でお召し上がりいただく自家需要よりもギフト需要が大きい商材です。特にECサイトではお歳暮・おせちの需要が大きく、年間売上の3割以上のシェアを占めます。 また、かまぼこは賞味期限が短いため、新鮮なうちに食べていただくためにも、ECサイトでは商品を受け取る日時を選べることが大前提です。特に年末商戦では12月28日や29日などピンポイントで受け取りたいという需要があります。

従来はそういった出荷のコントロールをアナログで行っていました。部分的にはシステムで管理もしていましたが、以前利用していたオープンソースのECサイトはカスタマイズを重ねておりエラーが頻発するという問題もありました。そのため、安定的に運用できるシステムを検討していたという背景があります。また、弊社には専門の技術者がいないので、スクラッチ開発等は困難という事情もあり、外部のECシステムを検討していました。

–いくつかのシステムを比較するなかで、HIT-MALL導入の決め手となったのが、ギフト需要への対応と、現場での使いやすさだという。

HIT-MALLは、阪急阪神グループのシステムとして百貨店のギフト需要への対応実績が豊富で、ギフトならではの細かい需要にも対応していただけました。たとえば、のしの種類や、注文者と送付先が異なる注文、複数の送付先に対しての異なる条件を同一画面上で設定するなどです。

■わかりやすくなった画面イメージ:複数お届け商品選択画面

また、管理画面がシンプルで、ECの知識が少ないスタッフでも操作しやすいのも、優れた点だと思います。正直、HIT-MALLよりも機能性の高いカートもあったのですが、そういったカートは現場の運用負荷が大きく、受注効率の改善にはならないと考えました。

リプレイスのコストをプラスに転じる戦略

–特にギフト需要に対応するため、導入においてはさまざまな要件定義が必要となったが、その際のアイテック阪急阪神の対応も、導入して良かった点だという。

信頼できる技術者の方が、要望を真摯に受け止め、要件定義をまとめてくださいました。要件定義やプロセス管理がしっかりしていたので、スムーズに社内での稟議や確認を進行できました。技術的にも、弊社の要望に合った内容をすり合わせながら機能要件の優先順位を決めていただき、スムーズなリプレイスが実現できたと思います。

–受注や出荷というバックオフィス業務の改善と合わせて、フロントのECサイトの見せ方も大きく改善されたのだという。

ユーザー心理に合った導線の引き方やデザイン設計にしていただけたことも、導入して良かった点です。たとえば、ギフト商材は、商品から選ぶだけでなく、予算や用途から選ぶことも多い商材です。そういった切り口を踏まえ、どういう導線がお客様にとって見やすいかを工夫しました。また弊社では、個人のお客様だけでなく法人のお客様にもECサイトをご利用いただいているため、個人情報の入力時、どういう形のフォームが使いやすいかという点なども相談させていただきました。

鈴廣かまぼこ株式会社 営業チーム メディア営業部 部長 松井 孝成様

他にも、弊社の商品はロゴや絵などに型染め(型染とは日本の伝統的な染色技法のひとつ。下絵から型紙を彫り、その型紙と餅米糊を用いて布や紙を染め上げる)という製法が使われており、あらゆるデザインがのコーポレート・アイデンティティ(以降、CI)に基づいています。しかしそれらをそのままECサイトに使うと雑然とした状態になり、世界観が伝わりにくくなります。CIを守りつつ、シンプルさや見やすさと両立させるかということにもこだわりました。

–ECサイトのリニューアルには、HIT-MALLへのリプレイスだけでなく、攻めのマーケティング戦略も含まれている。

リプレイスを機に、『かまぼこのある暮らし』という世界観を統一する意図がありました。日常のなかでの食べ方の提案や、ギフトのマナーなど、それまでECサイト内のブログとして存在していたコンテンツをひとつのサイトとして立ち上げ、そこからECサイトに誘導するという導線を、アイテック阪急阪神さんにも一緒に考えていただきました。

大幅な売上増加にも受注効率アップで問題なく対応

鈴廣オンラインショップ かまぼこのある暮らし(https://ec.kamaboko.com/shop/)

–リプレイスが行われ、サイトリニューアルが完了したのが2020年の4月。その効果は、さまざまな数字に表れている。

新型コロナウイルスの影響による巣ごもり需要もあったと思うのですが、売上は昨対約500%に伸びました。従来のカートシステムではそれだけの注文増加には対応できなかったと思います。また、CVRも約200%改善しました。世界観の統一や、カートの遷移など注文フローの改善が、こういった数字につながったと思います

–また、受注業務の効率も確実に上がっている。

HIT-MALL導入時に従来のカートシステムでは出来なかった仕組みや要望を解決してもらい、弊社基幹システムとの連携がスムーズになったことで、受注の効率を実現できたと感じています。受注業務では、ECサイトと合わせて電話注文やファックス注文にも対応しており、新聞広告などを大々的に出したりもしているのですが、そういったところからの注文増加にも問題なく対応できています。

–一方、リプレイスの際に懸念されていたのが、ユーザーがログインパスワードやクレジットカード情報を再登録する必要があるため、一時的に売上が減ってしまうのではないかということだ。しかし、実際には大きな問題は起こらなかった。

特に弊社の場合、ギフト目的で年に1回、年末にしかECサイトを訪れないというお客様も多いため、情報の再登録がネックにならないか懸念していたのですが、分かりやすいデザインや導線でご案内ができましたし、実店舗でもECサイトをご案内することでそこから登録してくださるお客様もいて、懸念していたほど売上が落ちることなくリプレイスが完了しました。

オムニチャネル化とECサイトの目指すところ

鈴廣かまぼこ株式会社 営業チーム メディア営業部 部長 松井 孝成様

–ECサイトの勢いが出た今、今後の課題として、まず、オムニチャネル化とユーザーへのOne to Oneのアプローチがあるという。

オムニチャネル化というのは、一番大きな課題です。弊社では現在、ECサイトと通販と店舗と別々にお客様情報の管理を行っているので、IDを統合して、ポイントやそのほかのサービスなどもシームレスに提供できるようにしたいです。

そして、今まさに取り組んでいるのが、One to Oneアプローチのための仕組み作りです。特に店舗では、お土産にかまぼこを買っていただけても、帰宅して日常に戻ると、かまぼこのことを忘れられてしまいます。お土産で終わらせずにいかに次につなげるかということを、全チャネルを通して実現しなければ、かまぼこの需要自体が下がってしまいます。

弊社の現在のメイン顧客は60~70代の方なのですが、それより若い世代では、かまぼこを食べる習慣がお正月だけ、あるいはお正月にすら食べる機会がない人も多いため、 One to Oneのアプローチで、日常のなかにかまぼこを取り入れていただけるような提案をしていきたいです。

–老舗でありながら、ECの最先端の技術や考え方も取り入れるその姿勢は、昔から鈴廣かまぼこに存在しているものだ。

弊社の社是は『老舗にあって老舗にあらず』です。『老舗にあって』というのは、昔ながらの製法を受け継いでいかに後世に引き継ぐかという職人のものづくりの姿勢に表れています。一方『老舗にあらず』というのは、時代ごとに変わっていくお客様のニーズに合わせて仕事のやり方も変えていくということ。そこに、弊社が老舗でありながらシステムやマーケティングに投資している理由があると感じています。

–ECサイトの今後としては、まずは会社の売上の10%まで成長させたいという目標がある。

10%というのは、実店舗とECサイトを持たれている会社で、一般的に基準にされることの多い割合です。弊社では現時点で、ECと電話、FAXを合わせても5%に満たない状況なので、1~2年後にはそれらトータルで10%程度に持っていきたいと思っています。

また、弊社の実店舗には、小田原・箱根に観光に来て立ち寄られる方が多く、それがきっかけでECサイトもご利用いただくことも多いです。現在も、かまぼこ以外に小田原・箱根の商品も扱っているのですが、今後さらにラインナップを増やして、小田原・箱根を代表するようなECサイトになってきたいという想いがあります。